種だけをもって去る

「私たち、もう結婚する必要ないんじゃないかしら」と唐突に彼女が言った。

「なぜ?」

「だって、これを見て」とお腹を手で撫でている。

なるほど、確かにそれは、誰がみても孕んでいるお腹だった。

「結婚の目的が達成されてしまった以上、もう改めて結婚などという面倒な手続きをすることないでしょう」

どうも腑に落ちない彼女の言い分ではあったが、「それはそうだ。君のいうことは正しいと思う」と上の空で応えると、彼女は呆然としている私を尻目にさっさとその場を立ち去った…次の男を探しに…

逆のがんばり

笑いを取ろうとがんばるから受けない。

笑わせようとする「がんばり」が相手に見透かされる。

「笑って!こんなに努力しているんだから!」

これに対し相手側の「だから笑ってあげましょう」では面白くない。

自然発生的な笑いは、相手の方からふっと湧きでる。笑いを強制しようと努力すれば失敗する。

人は皆、笑いたいときに笑うものだ。

ああ、そう

僕の彼女が結婚すると言った。

「ああ、そう」

と生返事をする僕は、彼女が「スマホ」と結婚すると知っていたから別段驚きもしなかった。だって毎日見ているもの、触っているものはスマホだけなんだから。

書類上の結婚でしかなく事実上の配偶者はやっぱりスマホだ。